私の長男は2歳のときにムコ多糖症Ⅱ型と診断されました。進行性で成長すると同時に老廃物が体中にたまり、あまり長く生きられない小児難病です。当時、確立した治療法や治療薬は無く、唯一骨髄移植で病気の進行を止められる可能性があると知りました。骨髄バンクの活動に参加させて頂き、一人でも多くのドナー登録者を増やそうとお願いを続けましたが長男とHLAが一致するドナーは見つかりません。混沌としている中、主治医から海外で行われている世界合同治験に参加できる可能性を知らされ、思い切ってアメリカのテキサス子ども病院の治験に参加しました。患者会からの依頼で日本テレビの取材を受け、その取材を受ける中で日本のドラッグラグ問題を知りました。
ドキュメント番組放送後、多くの方々が関心を持ってくださり、支援団体が立ち上がり、進行性難病の子どもたちがこの新薬を一日も早く使えるようにと、厚労省へ請願に伺いました。2007年10月、アメリカの承認から1年2か月後に日本の患者さんも新薬を使えるようになりました。ただしこの新薬は病気が治るものではなく、酵素補充療法という治療法で毎週投与を続ける必要があり、骨や中枢神経に届くものではありません。支援者のみなさんは長男の成長を見守り、ともに募金活動を続けてくださり、ムコ多糖症の研究者や日本マススクリーニング学会に研究助成金を送ることができました。
その後も骨髄バンクの活動に参加させて頂く中、夫が骨髄バンクを介してドナーになり、わが家は骨髄ドナーを求める側と提供する側の経験もしました。ドナーになった本人はケロッとしていましたが、いざとなったら手術など受けたこともない健康な夫に何かあったらどうしようかと家族としては心配で仕方ありませんでした。
また日本のワクチンギャップ問題を知り、予防接種で同じ病気の患者さんたちを感染症から守ることをはじめ、病気にかからずに済む人が増えれば医療費が軽減され、ひいては国民皆保険を守ることに繋がると信じて、予防接種法改正の運動に賛同しました。
長男が診断されてから20年、治療薬が承認されて13年経った現在、薬の審査の仕組みが変わり、新薬の承認もアメリカと並ぶほど早くなり、日本の保健医療は世界一とも言われています。再生医療やiPS細胞の応用など、日本発の新しい医療に期待しています。
そして、ムコ多糖症の現在行われている治療法とは別のアプローチで投与する治験が日本でも始まり、患者さん家族はわが子にも、これから生まれてくる患者さんのためにも未来を切り開きたいと参加協力されています。その中で一つの治験は「これまでの治療方法では考えられない」と言う人もいますが、それぞれの患者さん家族が治療の目的や内容を理解して挑戦されています。
さて、長男が診断されたときは成人まで生きられるかどうかと言われましたが、16年間毎週治療薬投与を受けて22歳になりました。この病気は低身長と言われた長男の身長は167センチまで伸びました。この治療では効果が届かない病変と闘いながら、週5日間アルバイトを続けています。本人は主治医が薦めてくださった次なる治療薬に期待を寄せています。
大変な難病でそれぞれ症状が違いますが、治療薬があることでこのように大人になれる患者もいます。もちろん、長男の病状を理解して対応してくださる医療者のみなさんに感謝しています。
いずれは治る治療が確立されることを目指して、患者さんがそれまで良い状態でいられるように、それぞれの症状に合わせた治療が継続して行われ、まだ治療薬がない患者さんに一日も早く治療薬が届くよう、決して止まることなく研究が進むことがムコ多糖症の今あるべき姿だと考えます。
ムコネットTwinkle Days Webサイト:https://muconet-t.jp
2020年12月24日掲載