上田 肇
ギラン・バレー症候群 患者の会 代表

患者目線の医療政策実現に向けて

ギラン・バレー症候群 患者の会は、患者や家族によるセルフヘルプグループです。ギラン・バレー症候群および亜種(フィッシャー症候群やビッカースタッフ型脳幹脳炎、AMSAN(急性運動感覚性軸索型ニューロパチー)、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)など他の病型を含む)の患者や家族の支援を目的としています。

治療方法やQOLの他に、例えば、患者や家族が心理的に孤立しないように励まし支え合うなど、心理的安全性を高める活動に重点を置いています。友の会のような同好の士が集まったクローズドな会ではなく、医療関係や介護関係などの支援者も加わったオープンな支援団体として活動を行っています。

PPI(患者市民参画)活動においては、患者会が参加の窓口となることで、患者や家族から効率的に質の高い協力が得られ、また、患者や家族はケアやプライバシー保護などの安心安全が得られるなど、患者会は高い付加価値を生み出しています。

現状と課題

ギラン・バレー症候群は年齢や性別を問わず毎年10万人に1~2人の割合で、主に食中毒やインフルエンザなどの感染症の後に発症する難病です。

100年ほど前に発見されるまでは、食中毒や感染症の後の後遺症とみなされ、当時はほとんどの方がお亡くなりになるか重度の身体障害に苦しんでいたことでしょう。ちょうど今、新型コロナ感染症で稀に重症になり後遺症に苦しむ方がいらっしゃるのと同じような状況だったのではないかと思います。

当時はなすすべもなく後遺症とみなされていたものが、100年ほど前に希少難病として見直され、治療法が考え出され、現在では8割近い方が回復する病気になりました。

しかしながら、今でも2割の方は治療完了後も重度の末梢神経障害に苦しめられています。また、回復した人も実際には末梢神経障害による体調不良などに悩まされています。

ギラン・バレー症候群という病気を診ている医師からは寛解と告げられ、患者が抱える末梢神経障害は「後遺症」と呼ばれ、治療の対象ではなくなります。後遺症の多くは身体障害を伴うため、障害者支援制度によるサポートを受けて生活をされています。

難病支援と障害者支援は互いに独立した制度ですが、患者にしてみれば必要なサポートを受けるのに、わざわざ難病と身体障害を区別して考える理由はありません。多くの患者や家族は、ご自身が抱える障害を、難病への理解や福祉政策の課題として捉えています。

解決策

かつて食中毒や感染症の後の後遺症であったギラン・バレー症候群が、現在は治療の対象となったように、現在も後遺症と呼ばれている末梢神経障害が病気として治療される日が来ることを患者や家族は待ち望んでいます。

患者目線の医療政策実現に向けて、ここ数年で日本でもPPIという追い風が吹き始めました。AMEDによる狭義のPPIは「研究者が患者・市民の知見を参考にすること」ですが、欧米のように「患者・市民と共に、または患者・市民によって研究が行われること。医療政策の全般において、意思決定の場に患者・市民の関与を求める」といったより広義のPPIが患者や家族の抱える課題の解決には必要です。

上から降りてくるPPIを待つのではなく、当事者が主体的に行動して、研究者を支援したり、当事者研究を行なうことが21世紀の患者会には求められています。

当事者の声を医療政策に届けるためには、個人や個々の患者会がバラバラに発言するのではなく、当事者が集まって主体的に意見や提案をまとめる必要があります。PPCIPがそのような当事者参加の大きな役割を担ってくれることを期待しています。

2022年3月2日掲載