2009年10月は、HPVワクチンが国内で認可されたときであり、私が子宮頸がんの宣告を受けた瞬間でもあります。
当時は女性向けのPRやキャスティングの事業を行い「伝えること・つなぐこと」がミッションであったことから、子宮頸がんの領域で組織的な情報啓発や医療とのアクセスをどうスムーズに行っていくかを考える社会的な受け皿がないことに気づき、子宮全摘出手術を目前にした、2009年12月に啓発団体を立ち上げました(当初はNPO法人)。ですので、ざっくりと12年は子宮頸がんをはじめ女性医療を取り巻く環境に身を置いています。
その間、2013年にワクチンは定期接種化され、同年6月に政府より積極的勧奨が停止。様々なお立場の皆様の地道なご尽力のおかげで、2022年4月からはHPVワクチン接種積極的勧奨が再開されることが決まりました。
コロナ禍において、ワクチンへの理解や意識が高まったことは、新しい生活様式の一歩と評価して良いと考えています。一方で個人的には、コロナワクチン接種の副反応が全くなく、それを発信したところ多くの人から「めずらしい!」とお声をいただき、2013年には聞けなかった言葉だと感慨深い思いでおります。
そんなわけで社会の空気の変化を感じるこの頃です。
さて、今回、ご縁を得て、PPCIPさんから、医療の受益者である患者さんや生活者の現状が必ずしも反映されていない日本の医療政策立案の現場をよりよくしていくために、患者目線での医療政策実現にむけた期待等の意見が欲しいとのご依頼を受けましたので、あくまでも私の経験を基に得た知見として、僭越ながらお伝えできればと思います。
患者目線の医療政策は実現するのか
これから医療に限らず社会的なデジタルインフラが整備され、患者と生活者の現状を定性的そして定量的に把握、その推移を評価できる人材が政策決定の場面にいち早く配置されていくことに大変期待をしています。
このプロセスとして、当事者の権利を守りつつ、その意義を叶えるための、社会の理解が重要なのではないでしょうか。患者目線の医療政策実現とは何なのか、それが患者や生活者にどんなメリットやデメリットをもたらすのかを、一般的な言葉で共有することです。
これまでは教育が行われてこなかったので、大抵の当事者は困って気づくことが多い。いま困っていることを把握し、政策に反映していくためには当事者以外の第三者が、医療現場で行われる対話以外にも様々な視点のデータをオンタイムに蓄積する必要があるからです。
さらには、あらかじめ設定されたゴールにストーリーを重ねるようなコミュニケーションの手法を変えてみることで、関心の速度が加速化すると考えています。
政策立案に患者や市民は参画できるのか
実際、がん経験者としてアドボカシー活動の現場を見ている中で、政策立案や決定の場面にいる患者や経験者、その家族の稀少さに気がつきます。
なぜならこの役割は、ほぼ経済的な評価がなく、社会的な価値が認識されていないため、重要な役割と期待されながらも評価や対価に値しない時間と労力が費やされていくからだと推測します。現状においてアドボカシーに参加し続けられる人とは、社会的な意義に人生をかけられる時間もしくはお金のある人か、この経験を仕事に変えられる人、そして社会的な価値観を持つ次世代といったところではないでしょうか。
医療政策における患者やその家族の役割を総合的に評価、支援する仕組みにも、ぜひ革新的なアイデアが欲しいと思います。
どう社会の変化に期待するのか
我々の団体では、コロナ禍であっても年間リアル(対面)で約2000人に向けたがん教育、健康教育研修を行っております。3年前に比べて、明らかに日々の健康に対する意識が高まっていることを体感し、それがアンケート調査にも表れてきています。昨年正解だと思われていたことが今年は状況が違うように、不確実性の高い生活環境の中でどうリスクを選択していくのか、さらには溢れる情報から何を信頼し、どうやったら正しい情報にアクセスできるのか、教育や企業の現場から意見を求められるようになりました。
これは、医療領域だけでは実現できない患者とその家族の「well-being(ウェルビーイング)(※1)」の実現に向けたチャンスだと捉えています。
これから企業等組織が行うESG投資(※2)のような経済的価値として、見えない価値を評価していく対策が進むなかでも、もっと社会が個人の喜怒哀楽に気づき、本質的な解決にむかうことを願っています。そしてその先に、そもそも日々の診療のコミュニケーション以外で、患者やその家族がその辛さや苦しみを訴えること自体に労力を費やさなくても、エコシステムによって循環されていく社会の進化に大きな希望を持ちたいと思います。
※1:well-being(ウェルビーイング)
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
(世界保健機関憲章前文より (日本WHO協会仮訳))
※2:ESG投資
財務的な要素に加えて、非財務的な要素である環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を考慮する投資のことを、ESG投資という。
(2020年12月2日財務省資料より)
2022年2月1日掲載