髙木 健二郎
一般社団法人食道がんサバイバーズシェアリングス/代表理事

医療を取り巻く環境改善へ取り組むべき提案

「セカンド・オピニオン」
よく聞く言葉でネット検索すれば、国も積極的に推奨してきた制度であり、その有効性は患者にとって病気への理解が深まり、納得して治療と向き合えることにもつながる事があるが、その反面、患者側の制度への理解不足や医療者側の感情により、患者側が不利益を被る場合もあり得るなど課題点もある。
そのためこの「セカンド・オピニオン制度」の整備を提案したい。

 セカンド・オピニオンのあり方として、命にかかわるような重要な決断を下す治療を行う場合は、ある程度の義務化など、必ずセカンド・オピニオンを受けなければ次のステップに進めないような「明確なルール作り」を行う事が、患者及び医療者側双方にとって関係性を気遣ったり損なったりする事無く、より納得した上で治療を進行していくために必要なのではないかと考える。

 この考えに至った経緯には、実際に自身が経験した2012年に食道がんステージ3を告知された際の2人の医師の見解の相違にある。

 診断の基になった検査は中規模病院Aでの人間ドックだが、検査結果の判断が下せず大規模病院Bを紹介された。

 大規模病院BのB医師は、中規模病院Aの人間ドックの検査結果をみて食道がんを告知。
その日初見の医師から、インフォームドコンセントもなくその場で1週間後に手術との判断を下される。

 しかし数日後に自らの意思で受けた大規模病院CのC医師の見解は、先に抗がん剤を2クール投与するため手術は2か月後におこなうとの当時の標準治療を提案。治療方法の可能性として外科手術、放射線治療の専門医からそれぞれ説明を受ける。
 私は結果的にC病院で再検査し手術を受けたが、B医師とのこの判断の違いに含まれる意味の怖さを理解してほしい。

 B医師はなぜ説明もなく標準治療をせずに、人間ドックの結果だけを見てすぐに手術をしようとしたのか。
 もしも自らC医師への見解を聞くという行為をせずにそのまま1週間後にB病院で手術していた場合、仮に後から何らかのきっかけでC医師が提案した標準治療という選択肢もあった事を知った時に持つであろう取り返しのつかない後悔と絶望感と怒り。

 少しずつ患者力が身についた頃、B医師がセカンド・オピニオンを促さなかったことに違和感を感じたのである。
 今まで大きな病気などしたこともなく、がんという病気・治療方法に対して全く知識もなく無知な状態で「がん」という病名を告知されたその日、動揺したその場で初見の医師に「セカンド・オピニオン」を自ら進言できる患者がどれくらいいるだろうか。

 これは患者が無知だったからでは済まされない、患者が病気・治療方法を理解し最終的には患者自らが決断を下せるよう、医療者側が患者の意思を尊重するためにセカンド・オピニオンを考慮してみてはと促してあげなければならない領域であり、患者の尊厳を無視した医療行為などあってはならない事である。

 日本人の性格の特徴でよく挙げられる事に、「礼儀正しく秩序を尊重し、時間や約束を守る」という事などがあるが、欧米人に比べ「自己主張が下手で主体性が低い傾向がある」という事もよく指摘される特徴です。これは、本音と建前が存在する日本文化の中で、相手の気持ちを汲み、場の雰囲気を感じ取り、相手の身になって考える事が礼儀であり、それが相手を敬う事になるとの考えの表れなのかもしれません。
 ただ、まさにこの日本人の性格こそが、セカンド・オピニオンを受けるための患者主体による手順に馴染まないためスムーズな流れにならず、医師の顔色を窺いながらといういらぬ気遣いを優先するが故、それが足枷となってセカンド・オピニオンを躊躇する事に繋がっているのではないだろうか。
病院のホームページで掲げるセカンド・オピニオンの説明は、記載するだけの綺麗事になってないなだろうか。

「セカンド・オピニオンを利用しても良いけど、そしたらもうこの病院には戻ってこられないよ」
大きな総合病院の医師が、2019年に大腸がんの患者さんに対し実際に言い放った言葉だ。
この言葉はその患者さんに、どれくらいの絶望を与えただろうか。立派なドクターハラスメントである。(その後その患者さんは、相談した外部の機関に紹介された大学病院で無事に手術をおこなっています。)

 セカンド・オピニオンを利用した患者と医療者側との軋轢を軽減するために、患者には制度の意味を理解させ、医療者側には義務化によるルールとして理解させる事により、患者はスムーズに選択肢を得る事ができ、より納得して治療にのぞめるようになるだろうが、「自由診療なため費用の負担軽減をどうするのか」「セカンド・オピニオンを保険適用にはできないのか」「重要な決断を下す治療の線引きはどこか」「病院の実績にならないセカンド・オピニオンを受ける病院側の負担感」「セカンド・オピニオンを受ける側の医師の時間的な制約や対応可能な物理的な時間不足」「セカンド・オピニオンを受けることにより生じる治療を開始するまでの時間と病期進行との闘い」「患者側の他病院へ受けに行かなければならないという身体的な負担」「セカンド・オピニオンのオンライン診療スタンダード化」「セカンド・オピニオンを受けない事を固持した場合のリスクへの理解と責任所在」「セカンド・オピニオン専門病院という発想の社会的価値や実現性」など課題を挙げればキリがありません。

 それらひとつひとつをクリアするためには、然るべき見識者による議論を経て国や地方自治体へ然るべき手順での訴えが必要となるでしょう。

 がんに罹患すると「時間」という概念が、以前とは大きく異なってきます。
がん患者には、あれもこれも試せる時間も体力も無いのです。そして治療をやり直すことも。

 患者にとって必要なのは「納得して治療にのぞめているのか・のぞめたのか」です。
これは患者にとっては、予後に非常に重要にかかわってくる精神的支柱なのです。
「そんな嫌味を言う先生に担当されて運が悪かった」
これは「運」で済む問題ではないのです。

 ごく一部の医師かもしれない。しかしこんな小言が聞き漏れてこないよう、セカンド・オピニオンは病種による一部義務化や、セカンド・オピニオンを受けた病院・医師、セカンド・オピニオンを促進した病院や医師に対して点数制や何かしらのメリットが受けられるようにしたり、先述の課題も含めた制度の整備がされたりしなければ、医師にも人間としての感情があり、医師としてのプライドがある限り、そこから生まれる軋轢は100%無くならないと考えている。
 そしてその軋轢によって患者が不利益を被ることなどあってはならないと考えています。

一般社団法人 食道がんサバイバーズシェアリングス
Webサイト:https://www.shokuganrings.com/

2020年12月2日掲載