1.患者の声
2006年、国連で「障害者の権利に関する条約」が採択され、日本も、2014年1月に同条約を批准。その際に繰り返し使われた合い言葉が
「Nothing About us without us (私たちのことを私たち抜きで決めないで)」
障害者の権利を守る国際的な条約は必要な中でも、それを障害者ではない人達だけで作るのではなく、障害のある人自身がその条約づくりに参画しなければならないという意味が込められているという。
‘実際、当事者の声はどのように反映されているのだろうか‘
現在、私は公務で携わっておりました、難病患者就職サポーター・地域両立支援推進チーム、研究班等の任務を経て、令和元年から、患者と就労に関する社会課題、治療と仕事の両立支援、難病患者や長期慢性疾患患者の就労支援に取り組ませていただいておりますが、それ以前は、長く看護師として、医療の臨床現場でキャリアの半分を過ごしてきました。
医療の臨床現場に携わる中、『患者と医療の関係性とは?』『その在り方とは?』
長年自らに問いかけてきた問いのひとつでもありました。
そんな問いもあり、コロナ感染症が萬延する以前、ある‘患者参加の医療‘に関するPPI(患者・市民参加)の意見交換の場に参加していました。
ディスカッションも終わりに近づいた頃、ある当事者の方が挙手され、参加していた100名近くの方々を前に「この議論の中に、患者の意見は含まれていますか?」という問いかけをされたんですね。
会場の空気をつんざくように投げかけられたその言葉に、私はハッとしました。
…今の議論の中に当時者がいたのだろうか‥と。
‘当事者の声が反映されるとは?いかに反映されうるのか‘
その頃はまだ、PPIのことをよくわかっていなかったのですが、中身を知るほどに、『患者・市民参加(PPI)とは、どんな価値や変化をもたらしてくれるのか』その期待は膨らんでいきました。
英国ではじめて取り入れられたPPIは、「患者・市民のために、また患者・市民について研究が行われることではなく、患者・市民とともに、または患者・市民によって行われること」であり、創薬・研究分野(狭義)に限らず、医療政策全般のその意思決定に、患者・市民の関与を求めるという考え方(広義)を広げようとしているということですが、
医療者として就労支援、患者の治療と仕事の両立課題に取り組むものといたしましては、創薬のプロセスに患者や市民の声を取り入れていこうという狭義もさることながら、広義の側面にも期待が膨らみます
‘患者・当事者、市民参加の意義‘その期待は、治療を継続しながら‘働く‘を考える患者(当事者)の‘就労‘のこれからのあり方にまで、広がっていきます。
2.難病患者・長期慢性疾患患者と就労
難病とは…
医薬の発展により、日本人全体・患者の寿命も延び、さらに就労率が高まっている疾患がある。世界にも日本にも、現在の医薬により、治癒する病と、今の時点では治癒にまで至らない病がある。未だに「治ったら出勤してください‥」と事業者から言われる患者がおりますが、治療をしながら生きる人の現状(社会を構成している労働者)を社会と共有し、疾患と社会の認識のアップデートをはかる必要があると言えるでしょう。
*日本では、指定難病、難病の定義がある。定義に含まれていない難治性な疾病の患者は、定義のうえでは難病ではないため、長期慢性疾患に含まれる。(定義や制度に含まれない難治性な疾病の患者は認識されにくい状態になる)
指定難病患者は約103万人(令和2年度)。この数字には重症度の分類等における数万人に及ぶ‘軽症(者)‘と判断された患者の数は含まれていません。さらに、指定難病の定義に含まれていない‘難病‘(難病の定義に該当する患者)患者の患者数も含まれていないため、実際の患者は、さらに多くなり、難病の定義に今の段階では当てはまらない難治性な疾病も数百万人程度いるといわれます。
現行の仕組みや制度のなかで保障の対象とされる、社会が共有できる(数字で把握できる患者)と実際の患者、労働市場で生き、就労する患者の間にも大きなギャップがみられています。
難病患者は、症状の変動性等、その疾患特性ゆえに現行の障害者手帳の基準では評価をすることができない症状があり、生活の支障の程度が障害者雇用相当であったとしても、障害者手帳、雇用率制度における求人を実質利用することができない状態の患者が多くおります。
難病患者にも、一般雇用のフルタイム正社員で就労している方々もいれば、福祉的就労、障害者雇までと幅広いのですが、(フルタイムから短時間勤務まで実際は多様な状況がある)制度の深い谷間があるために、就労機会が損なわれている患者の存在…通院の為に有給休暇を消化している労働者の不安…そもそも、そうした患者の声は、どうしたら社会に届くのか。
重度な症状の患者に注目が当たりやすい(社会の注目が患者や疾患にあたること、それ自体は喜ばしいですが、偏りがみられる)
私は当事者(難病患者・長期慢性疾患患者等)ではありませんが、
患者の声といかに向き合っていけるのか
医療現場から、就労支援の現場に移った今も、
患者の声はいかに反映されうるのか、その問いは続いています。
PPIは、社会の共生技法、そのプラットフォームにさえなりえる可能性もあるのではないかと感じていますが、しかし、同時に、形骸化しない(目的化)患者参画、多様な意見を含み、意見が言い合える状態であることや、同じ方々に意見が偏らない等、『意味のあるPPI』の在り方、評価の仕方などいろいろと気になるところがあるのも正直なところです。
今後、多様な疾患ホルダーの意見が、社会保障や医療政策・制度に議論のなかに、どのように取り入れてゆけるかという問いは、
治療と仕事の両立を必要とする患者と就労を考えた場合も、特定の疾患に偏ることなく、疾患を超えた議論や協働する機会を積極的に持つことができるか?という問いも刺激します。
持続可能な社会保障を共に考える、その議論、対話、意見交換の結節点となる‘学び合う‘態度等、ラスト・ワン・マイル(最終接点)の取組みがより重要になってくるのかもしれません。
このプラットフォームのベネフィットを最大活かしあえる社会
PPCIPの取り組み、そのチャレンジに期待をしながらも、私自身より学びを深め、自らのこととして一緒に考えて参りたいと思います。
このような機会をいただき、ありがとうございました。
PPI、その意思決定のプロセスが醸成してゆくこと、それにより、治療をしながら生きる人々の生活の質、人生の質が高まっていくことを心より願っております。
以下、補足資料:
2022年4月11日掲載