丸山 裕美
認定NPO法人 全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会 事務局長

患者当事者の声が医療政策に反映されるためには

1.疾患と活動内容

私たち「全国SCD・MSA友の会」は、進行性の神経難病の脊髄小脳変性症(SCD)と多系統萎縮症(MSA)の患者会です。いずれの疾患も、小脳の萎縮やその周辺の病変により、運動がスムーズにできなくなる運動失調と呼ばれる症状が徐々に現れます。

小脳は、運動がスムーズにできるように調節する働きを持つため、小脳が障害されると、動かすことはできるのに、上手に動かすことができなくなります。

  • 歩行障害:歩くときにバランスが取れずにふらつき、段々と歩けなくなります。
  • 構音障害:呂律が回らず、話しづらくなります。
  • 嚥下障害:飲み込み時に気管への蓋の開け閉めができず、ひどく咽せたり、誤嚥性肺炎になります。

当たり前のようにできていたことが、段々とできなくなっていくつらい病気です。
友の会では、病気の最新情報を広報し、生活相談・医療相談・交流会などの難病ピア・サポートや、社会への働きかけとして厚生労働省への陳情などを行っています。

2.22年間も新薬がない。

私たちには根治薬がありません。それどころか、運動失調に対する唯一の症状改善薬であるセレジストが発売されて以来、22年間も新薬が出ていません。
また、セレジストは薬価が高い薬です。ジェネリック薬の供給不足で先行開発薬のセレジストしかないと薬局に言われる事態も発生しました。痛み止めならば選択肢がありますが、薬が一種類しか無ければ選びようがありません。

3.進行性の神経難病の新薬開発は難しい

2021年12月に、新薬ロバチレリンの承認申請が出ました。根治薬ではなく、セレジストと同じような運動失調に対する症状改善薬です。現在、PMDAで審査中となっていますが、なかなか承認されません。
治験は本薬と偽薬を投与したグループを比較するのが一般的ですが、進行性の神経難病の場合は、1~2年の短い試験期間では差分が出にくいからです。5年から10年の投与期間があれば薬効を示すことができますが、偽薬を投与したグループの患者さんにとっては期間が長すぎるため、倫理的に問題があります。

4.臨床調査個人票データや患者レジストリの活用

このため、薬の開発手法として、データベースの活用を要望しています。特定医療費受給者証の申請・更新時に提出している臨床調査個人票の蓄積データや、脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の各患者レジストリデータの自然歴とのデータを活用し、自然歴データとの比較による治験を実施すれば、治験で偽薬を使わなくても良くなります。国が主導してデータベースを作成し、新しい治験の開発手法を推進してほしいのです。

5.国会議員との厚生労働省への陳情

2018年から各地の友の会と一緒に「SCD・MSA全国患者連絡協議会」という全国組織を立ち上げ、国会議員の方々と、厚生労働省への陳情を実施してきました。当初は野党の議員事務所に窓口をお願いしていました、今はご縁もあって与党の議員事務所に窓口をお願いしています。

6.PPIの萌芽

2023年5月に多系統萎縮症の新しい治療法開発のプレスリリースが出ました。医師主導の第2相治験で、還元型コエンザイムQ10による進行抑制効果が見られたという画期的なニュースでした。以降の治験や研究推進のため、多系統萎縮症の患者レジストリでは、登録者に対して治験に関するアンケート調査を実施しました。治験デザインに患者の声を取り入れようとするもので、「研究への患者・市民参画(PPI)」を初めて身近に感じました。しかし、患者参画と呼べるものではなく、まだヒアリングに過ぎません。

7.PPCIP

PPCIPのセミナーやミーティング、勉強会に参加することで、国の医療政策の決定がどのように行われるのか、患者当事者の参画の現状などを学びました。今まで手探りでやってきたことに肉付けされるような思いでした。
新薬の承認申請を契機に、ドラッグラグやロス、薬価の制定など、それまで見えていなかった様々な医療政策の問題についても自分ごととして考えるようになりました。
患者当事者の声が医療政策に反映されるためには、患者当事者が主体的に考え、行動することが求められています。PPCIPの活動が、患者当事者が声を上げるための大きな支えとなることを期待しています。

2023年7月12日掲載