川崎 真規
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
シニアマネジャー

疾患領域を超えた議論を行う患者団体であるPPCIPへの期待
~医療政策決定プロセスに患者の声を届けるために~

「ありたい医療の受け方」を議論することへの期待

私たちは、体調不良の際に、受診する科(内科・外科など)を自ら判断し決めることができます。そして、受診した科に応じて、自分の心身の不調を医師等へ伝えると思います。

それでは、ここで一つ場面を想像していただきたいと思います。あなたは今、ある科を受診しており、まさに自分の心身の不調を伝えようとしています。このときあなたは、心身の不調として何を主に伝えようと思いますか。

これは私の仮説であり、市民・患者視点での研究や調査が必要ですが、「受診している科を意識して、その科に関連するであろうと自分が思う心身の不調」を限られた問診時間のなかで、伝えようとするのではないでしょうか。

そのようなことは、「当たり前ではないか」と、皆さんお思いになるかもしれません。確かにその通りと私も思います。例えば、皆さんの身の回りの診療所・クリニックを思い浮かべていただくと、それぞれ何かの臓器や部位などを専門としています。つまりは、医療を提供する側の体制(以下、医療提供体制と呼ぶ)そのものが、臓器や部位ごとに整備されています。そのため、受診する我々においても、受診している科を意識しながら、心身の不調を伝えることが多くなります。

ただ、現在のこうした医療の受け方は、皆さんが望んでいる「ありたい医療の受け方」でしょうか。

例えば、地域の身近な診療所・クリニックなどで、内科・外科・小児科・泌尿器科・整形外科といった「科」を意識せずに、自分の心身の不調を一度に伝えられたら、と思ったことはないでしょうか。そして、自分だけでなく子供や配偶者、両親なども含めて家族の不調を診ていただいたり、疾患を治療するだけでなく介護についても相談できたり、家庭・学校・職場での悩みを相談できたり、地域とのかかわり方についても相談できたりするとよいな、と思ったことはないでしょうか。さらには、これまであまり病気をせず医療機関にかかっていなかった方でも、例えば、新型コロナウイルスに感染したのではと不安になった際などに、「科」を意識せず連絡できる医療従事者を事前に自ら設定できているとよいな、と思ったことはないでしょうか。

このように、私たちは、当然と思っていることであっても、改めて市民・患者視点で考えてみると、「もっとこうしたらよいのでは」と思うようになることがあります。そして、これは、患者・市民視点で考える「かかりつけ医」とは何か、という議論にもつながるのではと考えます。

「様々な方々との継続した対話」を通した議論への期待

医療制度等全体を議論する際においても、市民・患者のみで議論すればよいということではなく、様々な方々との対話が重要です。

例えば、医療従事者や学者の方々においても、同様の問題意識を持たれ、各種取り組みを進めておられる方々がいらっしゃいます。具体的には、上記で例示した複数の科を診る専門性を持ち、患者個人だけでなく家族や地域も診る「家庭医療学」を学ばれた方や、市民・患者を一方的に非難しない「非審判的態度」を重視し、市民・患者が自分の不調を話しやすいコミュニケーションを追求されたりしている方、このような医療の受け方を医療財政の観点から、どのように実現するかを研究されている方などがおられます。

このように各領域で取り組んでおられる方々との継続的な対話を行うことで、医療制度等全体的な問題に対して理解が深まり、市民・患者視点での議論がさらに深まると考えます。

「疾患領域を超えた」議論への期待

ここまで、皆さんが当たり前と思っていることも含めて医療制度等全体を対象に市民・患者視点でありたい医療の受け方などについて議論すること、様々な関係者との継続した対話を行うことへの期待について述べました。そして最後に、疾患領域を超えた取り組みへの期待について言及したいと思います。

現在は、疾患ごとに患者団体があり、各団体は、各疾患の審議会・委員会等へ参画されたり、意見陳述をされたりしています。一方で、疾患を超えた議論はあまり活発化していません。高齢者や高齢であるほど複数の疾患を患う方(多疾患併存患者)が多い[1][2]ことが研究されていますが、疾患領域を超えて議論する患者団体はまだ多くないからです。

そのなかで、PPCIPは、疾患領域を超えて、医療制度等全体も対象とし、市民・患者視点で継続した議論を行うことを目指しています。こうした取り組みは、これまでにほぼなかったこともあり、わが国において大変重要な取り組みになると考えます。

子供や孫、大切な方などを思い浮かべていただき、どのような医療提供体制を残したいか、持続可能な医療提供体制とするためにはどうすればよいかなど、PPCIPにて市民・患者視点で議論がなされることを期待します。そして、わが国の医療政策決定プロセスにおいて、PPCIPで議論された内容が、「市民・患者の声」として届くことを願っております。

[1] Aoki T, Yamamoto Y, Ikenoue T, et al. Multimorbidity patterns in relation to polypharmacy and dosage frequency: a nationwide, cross-sectional study in a Japanese population. Sci Rep. 2018; 8(1): 3806. doi: 10.1038/s41598-018-21917-6.

[2] Mitsutake S, Ishizaki T, Teramoto C, et al. Patterns of cooccurrence of chronic disease among older adults in Tokyo, Japan. Prev Chronic Dis. 2019; 16: E11. doi: 10.5888/ pcd16.180170

2022年3月10日掲載