宮田 俊男
早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 教授
医療法人DEN みいクリニック理事長(内科医師)

ポストコロナで医療提供のあり方がどう変わるべきか

※「患者目線で革新的医療政策実現を目指すパートナーシップ」プロジェクトが主催したオンラインセミナーでの講演内容をまとめたものです。

 私は、もともとは人工心臓の研究開発を専門としており、このような分野は臨床試験、臨床研究が非常に重要なことから大阪大学医学部に編入後、医薬品に対する基礎研究や医療機器、再生医療の開発に医師として従事しました。その後、厚生労働省において様々な医療政策、医療改革に携わり、現在は臨床医をしながら大学で教育・研究活動を行うとともに、医療法人の運営やセルフケアを推進のための事業を展開したりしています。
 現在は、運営するクリニックにて外来診療を行っており、同時に、スマートフォンから症状を入力することで、軽症についてはセルフケア、セルフメディケーションを促すとともに、その必要がある場合には医療機関に受診勧奨をするといった、「健こんぱす」という無料でダウンロードができるアプリの運営もしております。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行してからは急激にダウンロード数が増加し、現在2万人を超える方が利用されており、この分野も大きく動いているという状況にあろうかと思います。

オンライン診療を取り巻く状況

 特にこのコロナ禍ではオンライン診療のニーズが高まり、政府が規制緩和をしたということもあって、院内感染防止の観点からも大変注目されている状況にあります。
 オンライン診療に関する制度は、私も携わった、平成29年に発足した研究班が日本医師会や大学、ベンチャー企業の方々と話し合いをしながら整備を進めてきた経緯があります。その翌年、国からオンライン診療のガイドラインが出され、さらに診療報酬改定も行われまして、制度としてきちんと位置づけられました。そうした中で、2020年2月から新たに制度が緩和され、さらに4月には、これまで制限されていた初診診療も対応が可能になったことによって、発熱の初診患者さんにも対応できるようになりました。この8月時点では、1万6,000の医療機関がオンライン診療に対応しているというデータがあり、恐らく10施設あれば、1~2施設ぐらいが取り組んでいる計算になり、増加傾向にあります。

オンライン診療の課題

 オンライン診療を行う医療機関はこのコロナ禍で拡大し、さらには、オンライン上での初診診療に取り組む医療機関も増加傾向にありますが、特に日本ではICTによる医療情報の共有が進んでいない状況も改善の余地があります。例えば、お薬の記録や血液検査結果などのICTでの共有が不十分な状況にあります。そのため、我々のクリニックではオンライン診療の際、患者さんにお願いして、お薬手帳や血液検査結果の印刷物を事前にカメラ付きの携帯電話で撮影した画像をメール添付で送っていただいていたりしています。現状では、国内のベンチャー企業によるcuronやCLINICSなどのオンライン診療に特化したアプリや、LINEやFaceTime、Skype、Zoomなどの一般的なアプリを利用して情報を共有する場合もあります。
 また、通常の対面診療と比べて、医療機関側の手間や時間がほとんど変わらないにもかかわらず、診療報酬が低いため、医療現場においては対面診療と同等、もしくはそれに近い診療報酬が求められるという意見が大多数に上っています。

オンライン診療のニーズ

 ご高齢の方はこのようなアプリのインストールやユーザー設定が難しい場合があるにもかかわらず、感染対策の側面から、患者さんに高齢者が多い在宅医療の分野においてもそのニーズは高まっています。我々のクリニックにおいても、どうしても感染のリスクに不安がある高齢者の方が、まずはオンラインで診療を始めたところ、処置が必要な状態になってしまっている褥瘡が確認されたというケースがありました。
 さらに、日本においては薬機法も現在改正されており、従来は薬局もリアルな対面の服薬指導が必要でしたが、現在は薬局に行かなくても薬を届けてもらえるサービスが始まっています。ただ実際には、多くの患者さんが当日中すぐに薬が欲しいという希望があり、一部の薬局では、バイク便を用いて数時間のうちに配送する取り組みも出てきています。その他、ご高齢の方だけでなく小児の領域も含めて幅広くニーズがありますし、また、内科だけではなく皮膚科や耳鼻咽喉科の領域では抗アレルギー薬処方などがあり、この領域は特にオンライン診療のニーズが高いと考えられています。

オンライン診療で懸念されるケース

 緊急時のリスクが高いので、距離については基本的には、その医師のネットワークで対応できる範囲が望ましいと思います。また、電話だけで行うケースもありますが、誤診のリスクも高まりますので、なるべくなら動画を使うほうがいいのではないかと考えております。
 ニーズが高まる一方で、日本においては、向精神薬、睡眠薬をはじめオンライン診療では処方できないとされているお薬があるのですが、残念ながらそのようなお薬が処方されているケースもあります。また、医療情報やデータが把握できない場合はハイリスクのお薬、例えば抗血小板薬や慢性心不全の薬剤、免疫抑制剤などは処方しないようにとされていますが、残念ながら一部で処方されており、こうした状況が是正されていく必要があります。

オンライン診療が進んでいる他国の現状

 このように日本においても進んでおりますが、世界ではよりオンライン診療が進んでいる状況もあり、その一例としてイギリスのバビロンヘルス社の「AIドクター」があり、イギリスの保険者のNHSと連携しAIを用いた医療支援システムが幅広く活用されています。さらには、オンラインによる診察が行われる場合は全て保険診療ということになっており、連続的にセルフケア、セルフメディケーション、そしてオンライン診療が縦割りではなく、一体的に運用されています。その面においては、日本でもセルフケア、セルフメディケーション、オンライン診療、対面診療、地域包括ケアシステムなどが連続的にしっかりと連携できるよう考えていく段階にあります。

2040年を展望した医療提供体制の改革について

 現在、2040年に向けて、かかりつけ医がICTやAIの技術やオンライン診療を導入し、活用して診察後で大きな病院につなげていくような医療提供体制に改革していこうという動きがあります。新型コロナウイルス感染症によって、こうした改革が非常に速く大きく進んでいっている状態にあると考えています。各医療機関も変化する医療提供体制の方向に向けて素早く対応しなければならない状況にあり、大きな病院では新型コロナウイルス感染症に対して様々な医薬品の臨床試験が実施されており、抗体薬や細胞を用いた再生医療製品などについても開発が進んでいます。新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためには、今後さらに、医療機関のネットワークの有機的連携が非常に重要になっていくのではないかと考えられており、また、かかりつけ医において、セルフケアやオンライン診療を適切に活用していくことが求められています。
 規制緩和がされ、新しいイノベーションが大きく進んでいく一方、当然、オンライン診療で何でも診察ができるわけではなく、様々な薬を全て処方できるわけでもありません。医療者側と患者さん側が共に、これらを適切に活用することが必要であり、患者さん側もよく理解し、セルフケアリテラシーを高めていくことが重要だろうと考えております。

 また、例えば、脈拍測定や心音、呼吸音の聴取、パルスオキシメーターなど、センサーやモニタリング技術などのテクノロジーを活用することにより、オンライン診療のクオリティを上げて、かつ得られる様々な情報を連携させていくことが必要です。さらには、エビデンスを集めて、医療制度への提言も行っていく必要があるだろうと思います。
 このように、対面診療とオンライン診療を組み合わせて、医療の質の向上と効率化を両立できるようにしていくことで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ*1を世界的に進めていくということが重要になるだろうと考えております。

*1:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage : UHC)とは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。(出典:厚生労働省ホームページ)

2020年10月19日掲載